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相続・遺言・遺産承継

相続分の譲渡と特別受益の関係

テーマ

父の相続(一時相続)において、母が子に対し、自己の相続分を譲渡した場合の二次相続時の注意点


平30年10月19日最高裁判決 遺留分減殺請求事件

1. 事実関係(※実際の事件を簡略化しています)
(1)A(父)と、B(母)の間には、X,Y及びCの3人の子がいました。 
(2)Aは、平成20年12月に死亡し、相続人は、配偶者Bと、子X,Y及びCの合計4名です。
(3)B(母)は、亡Aの遺産についての遺産分割調停手続において、遺産分割が未了の間に、子Yに対し、自らの相続分を譲渡し、同手続から脱退しました。その後、X,Y及びCの間において遺産分割調停が成立しました。
(4)B(母)は、平成26年7月に死亡した。
(5)亡Bは、その有する全財産を子Yに相続させる旨の公正証書遺言を作成していました。
(6)Xは,Yに対し,亡Bの相続に関し、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

2.争点
 本裁判は、父の一時相続の時になされた母Bから子Yへの相続分の譲渡が、母の相続(二次相続)において、遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条,903条1項)に当たるか否かが争われた事例です。


平30年10月19日最高裁判決

原審(平成29年東京高裁)の判断
  原審の判断を要約すると、相続分の譲渡は、観念的なものであり、遺産分割が確定するまで譲渡分に利益があるかどうかは判断できないとして、相続分の譲渡は「贈与」には該当しないと判断しました。Xはこれを不服とし、最高裁に上告しました。

最高裁の判断
 最高裁は、Xの上告を認め、次のように判断し、審理を差し戻しました。
 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し,相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。そして,相続分の譲渡を受けた共同相続人は,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり,当該遺産分割手続等において,他の共同相続人に対し、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。
 したがって,
共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。

 最高裁は、相続分の譲渡が単なる権利の移転ではなく、財産的価値を包含する贈与としての側面を持つ可能性があることを示しています。最高裁の判断により、譲渡された相続分の価値が特別受益として評価され、遺産分割や、他の相続人の遺留分に影響を与え得るという点が明確にされ、今後の相続実務における重要な指針となったといえます。

相続分の譲渡、特別受益、遺留分侵害額請求

⑴ 相続分の譲渡

 相続分の譲渡とは、相続人が有している相続権(権利と義務の双方)の一部又は全部を、他の相続人あるいは第三者へ譲渡する行為をいいます。通常、相続が開始すると、相続人は遺産を共有する状態となり、遺産共有を解消するためには、相続人全員による遺産分割が必要となります。しかし、相続人の中には、はじめから遺産の取得を望まない者や、遺産分割への参加を煩わしく思う人もいることから、そのような相続人は、あらかじめ相続分を他の相続人又は第三者へ譲渡することによって、遺産分割への関与を回避することができます。相続分の譲渡は、有償、無償を問いません。

⑵ 特別受益

 相続人に対する一定の贈与(※)は、被相続人から遺産の先渡しを受けたものと評価され、遺産分割時に贈与を受けた相続人の取得分を調整する必要があります。具体的な調整方法として、その贈与を遺産の一部とみなし、相続開始時の評価で遺産に加算して具体的相続分を計算します。この特別受益に当たる贈与は、民法上、期間の制限を設けていないことに注意が必要です。
(※)婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与

⑶ 遺留分請求

  相続人には、法定相続分とは別に、遺留分が認められています。これは、主に被相続人が遺言によって特定の相続人や第三者に財産を多く遺贈した場合でも、遺留分権利者である法定相続人が最低限の取り分を確保できるようにするための制度です。遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額(※)を加えた額から債務の全額を控除した額とします。

(※)遺留分算定のための贈与の価額の改正ポイント
・平成30年の民法改正前は、相続人に対して生前贈与がなされた場合、その時期を問わずそのすべてが遺留分算定のための財産の基礎とされていましたが、改正後は、原則、相続開始前の10年間にした贈与の価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額)に限定されています。

【参考文献:一問一答 新しい相続法(商事法務)】

一時相続における相続分の譲渡が二次相続に与える影響

 遺産分割協議に参加したくない相続人が、他の相続人に相続分を譲渡(贈与)することは、実務において珍しくありません。しかし、本事例のように、亡父の遺産分割に先立ち、母が特定の子(以下、Y)に相続分を譲渡するケースでは、将来的な影響に注意が必要です。
 具体的には、Yが母から取得した相続分に基づき遺産分割が実現した場合、母からの譲渡は「特別受益」として評価される可能性があります。このため、母死亡の二次相続において、以下のような場合に影響が考えられます。

1. 母が無遺言で亡くなり、遺産分割が必要な場合

 生前の母からの相続分譲渡が特別受益として考慮され、遺産に持ち戻されることが考えられます。この場合、亡母の遺産分割協議において、他の相続人との関係で具体的相続分による調整が必要になる可能性があります(Yが法定相続分を下回る結果となります)。

2. 母が「全財産をYに相続させる。」とする遺言を残していた場合

 遺言があっても、他の相続人の遺留分を侵害する場合、遺留分侵害額請求の対象となります。母からの相続分の譲渡は特別受益として考慮され、遺留分の算定に影響を与えます。なお、平成30年の民法改正により、相続人への贈与は、「相続開始前10年間」に限定されたため、原則、それ以前の贈与は持ち戻しの対象外となり、10年以内の譲渡が遺留分の算定に含まれるといえます。

※本記事は、2024年11月時点の情報に基づいて作成されています。
※本記事の内容に関する具体的なご相談やお問い合わせはお受けしておりませんので、あらかじめご了承ください。

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