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相続・遺言・遺産承継

包括遺贈、遺言執行者

テーマ

〜新しい相続法における遺言執行者の権限の明確化〜


1・現行の民法(平成30年民法改正)において、不動産登記手続における遺言執行者の登記申請権限はどのように明確化されたのでしょうか。
2・包括受遺者が遺贈を放棄した場合のその受遺分は、だれに帰属するのでしょうか。

これら1.2の論点について、令和5年5月19日最高裁判決 所有権抹消登記等請求事件を題材として考察をしてみます。

事例
⑴平成21年○月、Bは、自己の有する不動産を含む一切の財産を、@長女Dに2/3の割合で相続させ、A孫F(Dの子)に1/6の割合で遺贈し、B孫E(長男Cの子)に1/6の割合で遺贈する公正証書遺言を作成しました。遺言執行者には、弁護士Xが指定されていました。

相続関係  
      亡A=====遺言者B
           |
      長女D※−−長男C 
        |     |
       孫F※   孫E※        ※包括受遺者3名 / 遺言執行者 X

⑵ 平成23年○月、Bが死亡しました。Eは、その後、本件遺言にかかる遺贈を放棄しました。

問題点
本遺言の@ABをそれぞれ「@部分」「A部分」「B部分」として、次の検討をしてみます。
@部分の遺言執行にあたり、遺言執行者Xに不動産登記の申請権限はあるか。
A部分の遺言執行にあたり、遺言執行者Xに不動産登記の申請権限はあるか。
B部分の遺贈の放棄によって、失効した受遺分は、だれに帰属するのか。
 
遺言の解釈
@部分については、相続財産を一定の割合で相続人に相続させる趣旨の遺言であって、 「相続分の指定」(民法902条)と解釈するのが一般的な考え方です。 法定相続分を超える権利の取得については、対抗要件主義が採用されている関係で、法定相続分を超える不動産の権利の取得について、登記を備えないとその超える部分については第三者に対抗できないことになります(民法899条の2第1項)。このことから、Cは、自らの法定相続分2分の1を超える部分の取得を第三者に対抗できるよう、速やかに登記を備える必要があります。この点に関して、特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる遺言」)については、遺言執行者は、受益相続人が対抗要件を具備するために必要な行為(例;不動産登記申請)をすることができるとされていますが(民法1014条第2項※)、相続分の指定の遺言については、これと同じ規定は設けられていにことに留意する必要があります。

A部分について、 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(民法1012条第2項)とされています。この規定は、包括遺贈、特定遺贈を問わず、遺言施行者のみが遺贈の義務者となることを明らかにしたものと解されています。不動産登記において、遺贈による登記申請は、受遺者と遺言執行者又は相続人との共同申請で行われることから、本遺言の執行に関しては、受遺者Eは遺言執行者Xに対し、登記手続を求めることになります。

B部分について、 遺贈がその効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する(民法995条第1項本文)とあります。問題は、包括受遺者も相続人と同一の立場であるとされていることから(民法990条)、放棄により失効した受遺分は、他の包括受遺者へ帰属するのか、あるいは、遺言者の相続人へ帰属するのか、解釈が分かれています。本判決では(多数説に従って)、失効した受遺分は、他の包括受遺者へ帰属せず、相続人へ帰属すると判示しました。このことから、本事案においてEが放棄した受遺分については、亡Bの相続人であるCとDに帰属することになります。ただし、この場合、法定相続分割合で帰属するのか、それとも指定相続分割合で帰属するのか、あるいは、それ以外の割合で帰属するのかといった点には触れられておらず、引き続き検討が必要になりそうです。

以上です。

参考文献;「一問一答新しい相続法(商事法務)」/LLI/DB 判例秘書「判例解説」

(※)民法1014条第二項から第四項までの各規定は、平成31年(2019)年7月1日以降に作成された遺言について適用されます。

参考;
法律改正により、令和5年4月1日からは、遺贈により不動産を取得した相続人(受遺者=登記権利者)は、その所有権の移転の登記を単独で申請することができるようになります。
詳しくは、こちら「妻へ遺贈する登記の申請方法」

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