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賃借していた建物が競売となった場合の賃借人の保護について


質問
 私が賃借しているアパートに設定されていた抵当権が実行され、競売手続きにより建物の所有者が代わりました。この場合でも私はこれまでの賃貸借契約に基づいて、この建物に住み続けることができるのでしょうか?

回答
 質問にある抵当権の設定登記より先に質問者(以下、Aさん)が建物の引渡しを受けていれば、競売手続きによって所有者が変更しても従前の賃貸借契約は存続することになるので、Aさんはこの建物に住み続けることができます。
 これに対し、質問にある抵当権の設定登記より後にAさんが建物の引渡しを受けていれば、Aさんの賃借権は当該抵当権に対抗できないことから、抵当権の実行によって競売手続きが終了すると、従前の賃貸借契約は消滅します。この場合、Aさんは新しい所有者との間で新たな賃貸借契約を結ばない限り、この建物を明け渡す必要があります(ただし,民法では明渡猶予期間があります。)。
 なお、抵当権の設定登記は、当該建物の登記事項証明書で登記された日付け等を確認することができます。

 解説
 抵当権が設定されいても、物件所有者は目的不動産を他人に貸して賃料収入を得ることができます。しかし、抵当権者への債務の弁済が滞ると、抵当権者の申立てにより、抵当権が実行され競売により買受人(新所有者)が目的不動産の所有権を取得します。
 この場合、法律上、新所有者と目的不動産の賃借人(Aさん)との関係がどうなるかということですが、上記回答にあるように、実行された抵当権の設定登記をした日付けとAさんが目的不動産の引渡しを受けた時期との先後関係で従前の賃貸借契約が存続するか,消滅するかが決まります(参考条文 借地借家法第31条) 。
 通常、アパートなどの物件を借りる場合は、既にアパートに金融機関等の抵当権の設定登記がなされていることが多いので、この場合に当該抵当権が実行され競売手続きが終了すると、従前の賃貸借契約は消滅し、新所有者との間で新たな賃貸借契約を締結しない限り、賃借人はアパートから立ち退きを迫られることになると考えます(その他参考条文 民法第387条)。
 ただし、競売手続きの開始前から賃借していた場合は、その建物の競売における買受人の買受けのときから6ヶ月間、明渡しが猶予されます。この明渡し期間中は、従前の賃貸借契約による賃料の支払い義務はありません。ただし、新所有に対しその間の建物の使用に伴う対価の支払い義務があります(参考条文 民法第395条第1項第一号・第2項)。つまり、賃借人は、建物を使用することにより得た対価として賃料相当額を新所有者に支払う必要があります。この賃料相当額は、一般的には従前の賃料と同額とされる場合が多いようですが、従前の賃料が不当に低額であった場合等は、これと異なる適正な賃料相当額の支払い義務を負うことがあります。
以上です。

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参考条文
借地借家法
(建物賃貸借の対抗力等)
第31条  建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

民法
(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
第387条  登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
2  省略

(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
第395条  抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一  競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二  強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2  前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。

参考判例
昭和46年3月30日最高裁判所第三小法廷判決

判示事項
 賃借権に優先する抵当権が競売によつて消滅すべき場合と右賃借権消滅の有無
裁判要旨
 賃借権に優先する抵当権が競売により消滅すべき場合には、該賃借契約が競売申立記入登記のなされる前に締結され、対抗要件を経由した場合であつても、抵当権に対抗しえない結果、競落により抵当権とともに消滅するものと解すべきである。
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