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「調停調書による所有権の移転の登記と住所変更登記について」
調停調書により所有権の移転の登記を申請する際に、調書記載の登記義務者の住所が登記記録の表示と符合しない場合において、調書記載の住所が正しいときは、住所の変更または更正登記を要し、調書記載の住所が誤っているときは、当該住所についての更正決定書を添付して登記する必要があります(登記研究383)。
先日、ある調停事件で、「Aは、Bに対し、X不動産を贈与し、贈与による所有権の移転登記を申請する。」とした内容の調停が成立しました。
そこで、Bさんは、この調書に基づいて、A名義のX不動産をB名義に変更しようと司法書士に相談しましたが、司法書士がX不動産の登記事項証明書を確認すると、そこに記録されている所有者Aの住所は、「横浜市戸塚区戸塚町100番地」となっている一方、調書に記載されたAの住所は、「藤沢市湘南台一丁目20番地30」となっていました。
この場合、上記登記研究の取扱いによれば、AからBへ贈与による所有権の移転登記を申請する前提として、Aの登記上の住所を変更するか(Aの住所変更登記を行うか)、調書記載のAの住所を更正する決定書を裁判所から得るか、いずれかの手続が必要になりそうです。
ところで、司法書士が調査をしてみると困ったことが発生しました。それは、まず、Aの現在の住まい(居所)は、「藤沢市湘南台一丁目20番地30」であるため、調書記載の住所に誤りはないから、裁判所が更正の決定をするのは難しいとのことでした。
しかし、一方でAの住民票の住所は、依然、「横浜市戸塚区戸塚町100番地」のままだったのです。法務局に住所の変更登記をするためには、住所の変更のわかる住民票や戸籍の付票等の変更の証明書を提出する必要があります。なお、いくつかの文献には、住民票等の証明が得られない場合、可能な限り登記官が変更の事実を推認し得る資料を添付すべきであるとし、具体的代用資料として、勤務先の証明書や、地区の公職者(自治会長、民生委員、警察官)の証明書等があるようですが、はたして、これで住所変更登記ができるか確信はありませんでした。いずれにしても、これらの資料は、Aの協力なくしては通常得られない代物であり、一見なんの問題もなさそうに思えた調停調書による贈与の登記は、ここにきて一気に雲行きが怪しくなりました。
幸い、今回の相談は、調停事件を担当した弁護士の協力もあって、結果としては、贈与の登記は無事に終わりましたが、住所の変更登記は、簡単そうで奥が深いと実務でよく言われている意味を、今一度改めて知らされる出来事でした。
以上です。
※上記は、執筆時点(2008年)での情報です。実際の事例に関しては、管轄の法務局、又は登記申請を担当する専門家へお尋ねください。
「調停調書による所有権の移転の登記と住所変更登記について」
調停調書により所有権の移転の登記を申請する際に、調書記載の登記義務者の住所が登記記録の表示と符合しない場合において、調書記載の住所が正しいときは、住所の変更または更正登記を要し、調書記載の住所が誤っているときは、当該住所についての更正決定書を添付して登記する必要があります(登記研究383)。
先日、ある調停事件で、「Aは、Bに対し、X不動産を贈与し、贈与による所有権の移転登記を申請する。」とした内容の調停が成立しました。
そこで、Bさんは、この調書に基づいて、A名義のX不動産をB名義に変更しようと司法書士に相談しましたが、司法書士がX不動産の登記事項証明書を確認すると、そこに記録されている所有者Aの住所は、「横浜市戸塚区戸塚町100番地」となっている一方、調書に記載されたAの住所は、「藤沢市湘南台一丁目20番地30」となっていました。
この場合、上記登記研究の取扱いによれば、AからBへ贈与による所有権の移転登記を申請する前提として、Aの登記上の住所を変更するか(Aの住所変更登記を行うか)、調書記載のAの住所を更正する決定書を裁判所から得るか、いずれかの手続が必要になりそうです。
ところで、司法書士が調査をしてみると困ったことが発生しました。それは、まず、Aの現在の住まい(居所)は、「藤沢市湘南台一丁目20番地30」であるため、調書記載の住所に誤りはないから、裁判所が更正の決定をするのは難しいとのことでした。
しかし、一方でAの住民票の住所は、依然、「横浜市戸塚区戸塚町100番地」のままだったのです。法務局に住所の変更登記をするためには、住所の変更のわかる住民票や戸籍の付票等の変更の証明書を提出する必要があります。なお、いくつかの文献には、住民票等の証明が得られない場合、可能な限り登記官が変更の事実を推認し得る資料を添付すべきであるとし、具体的代用資料として、勤務先の証明書や、地区の公職者(自治会長、民生委員、警察官)の証明書等があるようですが、はたして、これで住所変更登記ができるか確信はありませんでした。いずれにしても、これらの資料は、Aの協力なくしては通常得られない代物であり、一見なんの問題もなさそうに思えた調停調書による贈与の登記は、ここにきて一気に雲行きが怪しくなりました。
幸い、今回の相談は、調停事件を担当した弁護士の協力もあって、結果としては、贈与の登記は無事に終わりましたが、住所の変更登記は、簡単そうで奥が深いと実務でよく言われている意味を、今一度改めて知らされる出来事でした。
以上です。
※上記は、執筆時点(2008年)での情報です。実際の事例に関しては、管轄の法務局、又は登記申請を担当する専門家へお尋ねください。