家族信託の実務
福祉型民事信託のお話
福祉型民事信託
1.「福祉型信託」とは、一般的にどのような信託のことでしょうか。
明確な定義は見当たりませんが、広く高齢者や障害者等の生活支援のための信託のことを指すとされています(平成18年信託法改正時の国会の付帯決議)。
従来の後見制度と信託を併用することで、高齢者の希望する財産管理や身上保護を中長期に渡って実現していくことができます。また、高齢者の相続発生後に残された高齢配偶者や障害のある子のための円滑な遺産承継及び適正な遺産管理について、信託を積極的に活用することが考えられます。
2.実務での対応
福祉型民事信託においては、その信託目的の中で、受益者の安定した生活と福祉の確保が掲げられており、また、医療や介護等に必要な費用の給付文言が規定されていることが一般的といえます。そして、これら信託目的を達成させるために、受託者には、自らの裁量で信託財産を管理、運用、処分するなどの一定の権限が与えられます。
また、高齢者との間で特定の親族又は専門職が任意後見契約を締結し、時期がきたら任意後見監督人を選任することで任意後見を開始させます。任意後見人は、信託財産以外の財産の管理又は処分、及び高齢者の身上保護並びに受託者の監督を行います。
3.金融機関の調査報告
某金融機関の調査によると、金融機関に持ち込まれる民事信託の統計では、約9割が福祉型信託とされています(2021年度調査)。
福祉型信託の現状
4.福祉型信託の課題、問題点
@成年後見制度の潜脱としての信託の利用
福祉型信託は、後見制度と併用して利用されることが望ましいとされていますが、後見制度を回避することを目的として信託を利用しているケースも少なくないようです。後見と異なり、裁判所が信託に関与する場面は限られており、受託者を監督する公的機関はありません。受託者が信託財産を囲い込んでしまっているようなケースには注意が必要です。
A身上保護への配慮
福祉型信託を通じて、高齢者の身上保護を含めた生活全般の支援を考慮する必要があります。信託と任意後見を併用することで、特定の財産については受託者が管理又は処分し、その他の財産の管理及び身上保護(受託者への監督も含む。)は後見人が行うといった役割分担が重要といえます。
B専門職による継続的な支援
実務では、任意後見契約を締結しても、適切な時期に任意後見監督人の選任がない(後見が開始されない)といった問題が以前より指摘されています。これに関しては、専門職による継続的な支援によって、適切な時期に後見を開始し、高齢者本人の利益が損なわれないような体制が必要と考えます。
以上、福祉型民事信託について簡単にまとめてみました。高齢者・障害者の権利擁護の視点から、民事信託と後見制度をどのように連携させていくことが望ましいのか、引き続き検討していきます。
参考文献 「信託フォーラムvol.17;福祉型民事信託と特定障害者扶養信託」