相続・遺言・遺産承継

@特別受益と遺留分の関係

~遺産分割協議を行う場合の「遺産」の考え方~


【問題点】生前に被相続人から一部の相続人へ特定の財産の贈与があった場合、遺産算定にあたり、その贈与した財産を遺産に組み戻す(加算する)必要があるのかという問題があります。

具体的には、
【事例1】夫Aが妻Bに自宅不動産を生前に贈与した場合において、Aが死亡したときの相続手続(遺産分割協議)では、妻Bの相続分はどのように算定するのか。

【事例2】父Aが長男Cに自宅を相続時精算課税制度を利用して贈与した場合において、Aが死亡したときの相続手続(遺産分割協議)では、長男Cの相続分はどのように算定するのか。

【事例3】上記【事例2】において、父Aが全財産を長男Cに相続させるとした遺言書を作成していた場合はどのように考えたらいいのか。

A特別受益と持戻し免除の意思表示

事例1
自宅の夫婦間贈与の場合


この場合、遺産分割協議を行うにあたり、原則、贈与した自宅財産を遺産に持ち戻す必要はありません(自宅を除いた財産を遺産分割の対象とすれば足ります)。これは、夫が妻に贈与した自宅不動産は、将来の遺産とは切り離して考えるといった

持戻し免除の意思表示

があったものと推定されるからです(民法903条第4項)。なお、この持戻し免除の要件を満たす贈与には、

一定の条件

がありますので詳しくはご相談ください。
事例2
自宅を同居の長男に相続時精算課税制度を使って生前贈与(持戻免除の意思表示なし)

この場合、相続人間で遺産分割協議にあたり、贈与した財産は、原則、

特別受益として計算上、相続財産に加算する必要があります(持戻し計算)。

この場合、特別受益に該当する財産に期間的な制限はなく、原則、相続開始時にこれを持戻し、相続財産に加算したうえで、各相続人の法定相続分を計算することになります。ただし、被相続人の意思で持戻免除の意思表示をすることはできます。


参考条文
(特別受益者の相続分)
第903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

B特別受益と遺留分の関係

事例3
自宅を同居の長男に相続時精算課税制度を利用して生前贈与し、かつ、遺言書で残りの全財産を長男に遺贈した場合

この場合、

遺留分の問題が発生

します。遺留分の額の算定にあたっては、

当該贈与をしたときから10年以内に開始した相続

については、遺留分算定のための計算の基礎に当該贈与を組み込むことになります。なお、遺留分の計算において、贈与した財産についての

持戻し免除の意思表示を行うことは認められていません。

これは、遺留分が一部の相続人に与えられた絶対的な権利と解されているからです。


参考条文
(遺留分を算定するための財産の価額)
第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

第1044条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
・上記記事は2022年10月時点の内容です。
・上記事例は特別受益や遺留分に関する一つの考え方です。実際の事例につきましては、最寄りの専門家へご相談ください。

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