相続分の譲渡とその後の遺産分割協議
相続分の譲渡とその後の遺産分割協議があった場合の相続登記について
相続登記における持分の譲渡と直接登記の可否
事例@;同一順位の共同相続人間における相続分の譲渡と登記の手続き
被相続人Aについて、同一順位の共同相続人間で相続分の譲渡が行われた場合の登記について説明します。被相続人:A
相続人:B、C、D、EおよびFの計5名(遺産分割協議未了)
この事例では、C、DおよびEの3名がそれぞれの相続分をBに譲渡した結果、Bの持分が4/5、Fの持分が1/5となりました。この状態で、甲不動産についてAからBおよびFへ所有権の移転登記を行うためには、B持分4/5、F持分1/5とする相続登記を直接申請することが可能かどうかについて、昭和59年10月15日付法務省民三第5195号民事局第三課長回答により可能とされています。
解説
不動産登記記録には、物権変動があるたびにその内容を公示する必要がありますが、本事例のように同一順位の共同相続人間で相続分の譲渡が行われた場合には、その相続分譲渡に関する物権変動を登記記録に公示する必要はありません。このため、相続分譲渡後の持分状態に基づき、直接、相続登記を申請することが可能と解されています。
事例A:異順位の共同相続人間における相続分の譲渡と登記の手続き
被相続人Aの相続について、異なる順位の共同相続人間で相続分の譲渡があった場合の登記について説明します。被相続人:A
相続人:B、Cおよび亡Dの代襲相続人Eの計3名(遺産分割協議未了)
状況は以下のとおりです。
@Bの死亡により、X、Y、Zが相続人となった。
ACの死亡により、Pが相続人となった。
BE、X、Pがそれぞれの相続分をYに2分の1、Zに2分の1ずつ譲渡した。
このような@ABの状況で、甲不動産についてAからYおよびZ名義へ所有権移転登記を行うためには、以下の4件の登記申請が必要と考えます(参考;平成4年3月18日民三第1404号民事局第三課長回答)。
1.Aの相続開始によるB、CおよびE名義への所有権の移転登記
2.Bの相続開始によるYおよびZ名義へのB持分全部移転登記(Xの相続分譲渡証書が必要)
3.Cの相続開始によるP名義へのC持分全部持分移転登記
4.EおよびPの相続分の譲渡によるYおよびZ名義への持分移転登記(E・PおよびY・Zの共同申請)
これら1から4までの登記を順次申請することが適当とされています。
事例B:異順位の共同相続人間で相続分の譲渡が行われた後の遺産分割協議による登記
被相続人Aについて、異順位の共同相続人間で相続分の譲渡が行われた後に遺産分割協議が行われた場合の登記申請についての事例です。被相続人:A
相続人:B、C、およびDの計3名
状況は以下のとおりです。
@遺産分割協議が未了のままDが死亡し、EおよびFが相続人となった。
AB、Cがそれぞれの相続分をEに譲渡した。
BEとFで遺産分割協議を行い、甲不動産をEが単独で取得することとした。
上記事例において、甲不動産について「平成●年●月●日 D相続 平成○年○月○日相続」を登記原因とし、AからEへ直接所有権移転登記を行うことについては、平成30年3月16日付法務省民二第136号民事局第二課長回答により、差し支えないとされています。
解説
遺産分割の効果は相続開始時にさかのぼって効力を生じる(民法§909)ため、この遺産分割によって不動産を取得したEは、相続開始時から甲不動産を取得したことになります。そのため、遺産分割協議までの間に行われた相続分の譲渡は、実体上、存在しない物権変動とみなされ、登記に公示する必要はないとされています。
ただし、数次の相続が発生した場合に、「平成●年●月●日某相続 平成○年○月○日相続」を登記原因として一件の申請で所有権の移転登記を行うには、中間の相続人が単独であることが条件です。本事例において、仮にCがEに相続分を譲渡し、一次相続人のBと、二次相続人のE及びFが遺産分割協議をした結果、甲不動産をBとEの共有で取得することとした場合等は、上記回答の射程外と考えます。
以上です。
※記事の内容は、掲載当時の法令解釈や登記実務の運用に基づいているため、実際の事例に関しては必ず最新の情報をご確認のうえ、管轄の法務局、又は登記を担当する専門家へご相談ください。
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