相続・遺言・遺産承継

遺言による寄付

 近年、「遺贈寄付」に関するニュース記事や書籍を多く目にするようになりました。遺贈寄付とは、個人が亡くなった後に、遺言を通じて、生前に遺言者が関心を持っていた活動や団体に対し、遺産の全部または一部を寄付する方法です。これは、通常の相続とは異なり、遺産を特定の相続人ではなく、特定の目的を持つ団体などに寄贈する形で実現されます。
 寄付の候補としては、環境保護や貧困支援、医療研究、文化保存を目的としたNPO法人や慈善団体、教育機関、その他の基金団体などが挙げられます。

遺贈寄付が増えてきている背景

 遺贈寄付が増えている背景には、まず社会貢献意識の高まりが挙げられます。環境問題や貧困支援、医療研究など、社会的な課題に対する関心が強まっており、自分の財産を通じてこれらの分野に貢献したいと考える人が増えています。
 また、日本の高齢化社会と単身世帯の増加も要因の一つです。子どもがいない、あるいは、法定相続人がいない場合、自分が関心を持っている団体や活動に財産を遺したいと考える人が増加しています。このような背景から、遺贈寄付が選ばれるケースが増えてきています。
 さらに、自分の意思を明確に残したいというニーズも寄与しています。遺贈寄付を通じて、遺言者は自身の信念や価値観を未来に繋げることができるため、財産の使い道を自ら決めたいという意欲が高まり、遺贈寄付が選ばれる理由となっています。

寄付遺贈の実践

遺贈寄付する財産の種類について

 まず、寄付を受ける団体に対し、受け入れる財産の種類についての事前の確認が重要です。これは、団体によっては、金銭以外の資産を受け入れる体制が整っていない場合などがあります。また、寄付する金銭が多額であり、遺産の大部分を占める場合には、寄付を受けた団体が相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクがあります。遺贈寄付を検討する場合は、これらの点に配慮する必要があります。

遺言書の書き方

 遺言書に、「全財産をA財団に遺贈する。」、または「全財産を換価し、A財団にその◯割を遺贈する。」などと記載した場合、通常、A財団は、民法上「包括受遺者」として扱われます。
 包括受遺者は、権利だけでなく相続債務も承継するため、予期しない債務を引き継ぐリスクを与えてしまいます。また、全財産を遺贈する遺言において、受け入れ先の団体が不動産のみを放棄したいと考えた場合、包括受遺者に遺産の一部放棄は認められていません。不動産を受け入れないなら、家庭裁判所へ放棄の申述をする必要があり、その場合は、遺産の全部を放棄することになります(民法938条参照)。したがって、遺贈寄付をする際には、遺言の書き方にも十分な配慮が必要です。
 なお、遺贈寄付を行う際には、将来の法定相続人との間でトラブルが生じないよう、効力が争われにくく、かつ執行手続きも円滑に行える公正証書遺言で手続きを進めることが望ましいと言えます。
 

リスクを避けた確実な寄付遺贈の実現

遺贈寄付の留意点

 遺贈寄付を検討する際には、遺言の作成方法と内容が非常に重要です。法的に検討されていない遺言を作成すると、予期せぬ債務を承継するリスクや、法定相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。また、全財産を遺贈する場合には、受け入れ先の団体が財産の一部を放棄することができないなどの制約がある点にも十分留意する必要があります。さらに、その他の検討事項として、法人へ不動産を遺贈する場合は、課税の問題を検検証しなければなりません。
 このようなことから、遺贈寄付を行う際には、事前に専門家に相談することが大切です。相続手続きの専門家である司法書士から適切な支援を受けることで、法律的なトラブルを避け、遺言者の意思を正確に反映させるためのアドバイスを得られます。専門家のサポートを受けることで、安心して遺贈寄付の手続きを進められ、遺産を通じた社会貢献を確実に実現することができるでしょう。

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家族信託を活用した柔軟な寄付の方法について

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