相続・遺言・遺産承継

遺留分の基本的な考え方

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生前贈与と遺留分について


 生前贈与は,本来,本人の意思において自由になし得るものでありますが,一方で遺族らの最低限度の相続分(遺留分)を保障する必要性もあります。実際,不動産等の財産を生前贈与した場合,これが将来の遺留分の対象になるのかどうか気になっている方も少なくないと思います。以下、生前贈与した財産が,将来,相続人からの遺留分の対象になるのか否か,条文を踏まえて簡単に解説します。

民法第1030条

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

 本条は,遺留分算定の基礎となる財産に算入される贈与の要件について定めたものですが,ここでは,遺留分算定の基礎となる財産に算入される贈与について,@相続開始前一年の贈与A遺留分権利者を害することを知ってなした贈与の二つに限定しています。
 まず,@一年間の基準については,贈与の履行時期ではなく,贈与の意思表示がなされた時期で判断します。したがって,贈与契約が一年前になされている場合には,履行が相続開始一年以内になされたとしても,本条の贈与には含まれないと解されます。
 次に,A留分権利者を害することを知ってなした贈与についてですが,この意味について,判例は,客観的に損害の認識を持っているという意味であるとしています。では,客観的に損害の認識を持っているとはどのようなことを指すのでしょうか。これに関し,判例は,遺留分を侵害する事実関係を知っているだけではなく,将来において被相続人の財産が増加することはないとの認識をもっている必要がある(大判昭和11.6.7民集15-1246)としています。
 したがって,例えば、贈与から相続までに長期間が経過しているような事実は,将来において財産が増加することはないとの認識をもっていなかったと評価する材料になります。もっとも,高齢又は病気等で被相続人の活動力が低下しており,将来財産の増加の見込みがない場合は,損害の認識があったとされる傾向があります(大判昭和19.7.31民集23-422)。
 一般的に,例えば,一定の収入のある方が不動産を第三者に生前贈与した際,将来,上記Aの規定に該当するケースは,それほど多くないのかもしれません。

以上です。
追記
上記記述は、平成30年民法改正前の内容です。最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。

参考文献「判例民法10 相続」

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その他参考判例

裁判年月日
 平成11年6月24日

法廷名
 最高裁判所第一小法廷

判示事項
 遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与に基づき目的物を占有した者の取得時効の援用と減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属

裁判要旨
 遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52591


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