相続・遺言・遺産承継

 相続の方法には、「単純承認」「相続放棄」のほかに、あまり知られていない「限定承認」という選択肢があります。今回はその仕組みとともに、不動産がある場合の注意点や実際の裁判例についてもわかりやすく解説します。

限定承認とは?不動産で気をつけたい“みなし譲渡課税”の話

 相続が発生した際、「遺産に借金が含まれているかもしれない」と不安になる方も多いのではないでしょうか。そんなときの選択肢のひとつが「限定承認」です。これは、被相続人(亡くなった方)の債務が相続財産を超えていた場合でも、自分の財産でその債務を負担することなく、相続によって得た財産の範囲内で責任を負うという制度です。

限定承認の利点と注意点

限定承認は、一見すると相続人にとって非常に有利な制度に思えます。
• 相続財産の範囲内で債務を清算すればよい
• 債務超過のリスクを回避できる
ところが、この制度には見落としがちな落とし穴があります。とくに、不動産があるケースでは注意が必要です。

相続不動産があるときに発生する“みなし譲渡課税”

 所得税法59条1項1号という規定により、限定承認をした場合、相続財産である不動産は、被相続人が相続開始時に時価で売却したものと“みなされて”課税対象になります。これがいわゆる「みなし譲渡課税」です。
つまり、実際には売却していなくても、相続が行われたタイミングで利益が出たとみなされ、所得税が発生するのです。

実際の裁判例から学ぶ:みなし譲渡課税が争点に

東京地裁(平成13年2月27日判決/平成12年(行ウ)第50号)では、相続人らが限定承認を選択し、相続した不動産を売却して債務を弁済しました。その結果、数千万円の所得税(みなし譲渡課税)が課されました。
ところがこのケース、実は債務よりも財産の方が多く、結果的には「単純承認」とほとんど変わらない経済状況だったのです。ところが、限定承認をしたために「みなし譲渡課税」が適用され、多額の譲渡所得税が課税されたのです。しかも、もし単純承認をしていたら適用される特例(たとえば居住用不動産の特例)が使えた可能性もありました。
そこで、原告は「形式的には限定承認だが、実態としては単純承認と同じ。課税すべきではない」と主張しました。さらに、「相続財産の一部を消費したので、単純承認とみなされる(民法921条3号)」と主張し、あえて限定承認を否定することで課税の前提を崩そうとする戦術的な構成も見られました。

相続と遺言の設計は慎重に

 裁判所は、次のように判断しました。すなわち、限定承認によって課される譲渡所得税も、相続債務として清算される。相続人は、自己の財産で税金を払うわけではなく、したがって、制度趣旨に反する不利益ではない。また、相続人が不動産売却後に得たお金の一部を自ら消費していた点についても、「相続債権者への配慮を欠いた不誠実な消費とはいえず、単純承認の擬制(民法921条3号)にはあたらない。」としました(※)

限定承認のメリット

  • • 負債がどれだけあっても、相続財産の範囲内でしか責任を負わない
  • • 家業や土地建物など、手放したくない財産があるときに有効
  • • 一部の相続人にのみ債務が集中するのを防ぐことができる
 限定承認は非常に有用な制度である反面、不動産を含む財産がある場合には、税務リスクにも配慮が必要です。相続人としての責任範囲を限定するために取った手段が、かえって高額な税負担を招くこともあるのです。相続や遺言の設計にあたっては、司法書士や税理士などの専門家と連携し、制度の選択と実行方法を慎重に見極めることが大切です。

司法書士安西総合事務所では、相続・遺言に関するご相談を初回無料で承っております。限定承認や不動産の相続について不安がある方も、ぜひお気軽にご相談ください。


【コラム補足】裁判所の判断から見える実務の安心感
(※)同裁判では、「限定承認をした共同相続人の一人又は数人について、同法921条1号又は3号に掲げる事由があるとき・・・そのような事由のない他の相続人が限定承認の利益を受けられないとすることは酷であること、すでに開始した清算手続が全面的に覆滅されることになると、権利関係が複雑化し、相続人、相続債権者その他の利害関係人に混乱と不測の損害を加える虞れがあること等に鑑みて、限定承認の効果を維持しつつ、その事由のある相続人についてだけ、あたかも単純承認があった場合と同様の責任を負わせる趣旨であるものと解され・・・」と判旨しています(東京地裁 平成13年2月27日判決)。

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