不動産登記/共有状態の解消方法
共有不動産の解消方法【相続人が行方不明】
共有不動産の問題
一つの不動産を二人以上で所有している状態を共有状態といいます。一般的に、相続をきっかけに不動産が相続人間で共有となった場合、これを解消する方法は遺産分割の方法によります。相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき、裁判所は、遺産に属する財産の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活状況その他一切の事情を考慮する点で、通常の共有物分割の裁判とは異なります(民法906条)。また、遺産分割は、必ずしも共有の解消を目的としたものとはえいません。
ここでは、相続をきっかけに共有状態になっている不動産を単独所有にする事例を説明します。
相続登記ができない悩み
不動産の共有者に相続が開始したが、相続人の一部が所在不明のため、相続登記ができないという悩み
想定事例
平成元年に父Aが死亡し、A名義だった自宅不動産を遺産分割協議により、母B、長男Cの持分2分の1ずつとする相続登記をしました。その後、長男Cが8年前に死亡、Cの相続人である妻Wが所在不明のため、遺産分割ができない状況のまま、現在に至っています。Cの相続人は、妻Wと、母Bの二名。
〜時系列〜
・自宅の登記:父A名義(平成元年に死亡)
・自宅を母Bと長男Cが2分の1ずつ相続する遺産分割協議が成立、AからB、Cへ相続登記。
・長男Cが死亡、相続人は所在不明の妻Wと母B (※Cに子はいない)
Bは、自宅を確保したく、自宅不動産の登記名義をCからBへ変更したいと考えている。Bが取るべき法的な手続きは、どのようなものがあるか。
@家庭裁判所へCの遺産分割調停の申立てを行う
Aあと2年待って、地方裁判所に共有物分割の裁判を起こす
Bあと2年待って、改正民法の所在等不明共有者の持分取得の裁判を求める
解説
@実務では、Bは、Cの相続開始による遺産共有関係を解消するのに、地方裁判所又は簡易裁判所による共有物分割手続きによる解消はできないとされており、家庭裁判所の遺産分割調停の手続きを行う必要があります。相続人のWが所在不明のため、調停を進めることは現実的に困難といえます。
A民法の一部改正により、遺産共有持分とその他の持分が併存する場合(※)、相続開始から10年を経過すると、共有物分割の手続きで一元的に共有状態を解消することができるようになりました。本事例のBは、Cの相続開始から10年経過すれば、地方裁判所又は簡易裁判所に共有物分割の訴えを求めることができます(改正民法258条の2第2項)。
(※)共有物の全部が遺産共有であるケースは、相続開始から10年が経過しても、裁判による共有物分割の手続きによる解消は認めらません(改正民法258条の2第1項、2項)。
所在等不明共有者の不動産の持分の取得
所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判
所在不明のWを相手に裁判による共有物分割の手続きをすることは、通常の裁判に比べて、時間も手続きのコストもかかり、負担が大きいです。
そこで、改正民法では、地方裁判所の関与の下で、所在等不明共有者の不動産の持分を、他の共有者が相当額の金銭を供託して取得することができる制度が始まりました【所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判】この裁判手続きは「非訟事件」のため、権利関係等を争う一般的な裁判と異なり、簡易な手続きで処理を進めていきます。
本事例のBは、Cの相続開始から10年が経過するのを待って、所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判を利用することで、所在不明であるWの持分を取得することができます(※)。このように、相続をきっかけに不動産が共有となり、その共有者(相続人)の一部が所在不明の場合、相続開始から10年が経過すれば、所在不明の共有者の不動産持分を取得するための裁判を利用することが可能です。(改正民法262条の2第3項)。
※具体的な流れについてはこちらの記事所在等不明共有者の持分取得の裁判をご確認ください
その他、本事例以外にも下記のようなケースにおいて、所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判を利用することができるとされています。
@売買を原因として、A及び所在不明のBが共有で所有している土地につき、Aが死亡して、その相続人がCとDであった場合、CまたはDは、Aの相続開始から10年が経過する前であっても、Bの持分につき、所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判を利用することができるとされています(法制審議会部会資料より)。
A売買を原因として、A及び所在不明のBが共有で所有している土地につき、Bが死亡して、その相続人がEとFであり、かつ、EおよびFいずれもが所在不明の場合、Aは、Bの相続開始から10年の経過を待つことなく、Bの持分につき所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判を利用することができると考えられます。一方、Eのみが所在不明であるときは、Aは、Bの相続開始から10年の経過を待たなければ、所在等不明共有者の不動産の持分取得の裁判を利用することはできないと考えられます※。
※理由として、E・Fの遺産分割を請求する利益(特別受益や寄与分の主張、民法906条など)が損なわれる可能性があるから
ご注意)記事の内容は、掲載当時の法律や関連する資料に基づいているため、必ず最新の情報をご確認のうえ、実際の事例に関しては最寄りの専門家へご相談ください。